合理的配慮を提供するために望まれる事業者の対応とは

パーパス/人的資本 NEW

2024年4月22日

医療・介護コンサルティング部 サービスグループ
兼 コーポレート・リスクコンサルティング部 人的資本グループ
上席コンサルタント 米国公認会計士

宮本 薫

2024年3月、車いすの方が映画鑑賞に行ったところ、映画館の従業員の配慮が不十分だったなどとSNSに配信し、映画館側が不適切な対応について謝罪をするという出来事があった。

この出来事は、2024年4月からの改正障害者差別解消法(「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」)の施行により、事業者も、障害がある当事者に対して「合理的な配慮」を提供することが義務となるタイミングと重なって、当事者と事業者の関係の在り方について物議を醸している。

 

そもそも「合理的な配慮」の提供とは、障害のある当事者から「社会的なバリアを取り除いてほしい」という意思が示された場合に、その実施に伴う負担が過重でない範囲で、バリアを取り除くために必要かつ合理的な対応をすることである[1]。言い換えると、「合理的な配慮」を提供するということは、当事者に対して「特別扱い」をするということではなく、不公平な状況を是正する方策を共に考えていこうということである。そして、「合理的な配慮」は、障害のあるお客さまのみではなく、障害のある社員にも提供されなければならない。

 

事業者は、障害者差別解消法の理念と「合理的な配慮」について適切な理解を社内に促さなければ、「差別」的な対応を行ったとして、法令違反や評判を損ねる事案が発生する恐れもある。

例えば、全社員参加必須とした、1日がかりで行うグループワークのある集合研修が社内であったとする。しかし、聴覚過敏や、難病である潰瘍性大腸炎に悩む当事者の社員から、研修を長時間受講し続けることは難しいので、オンラインにて受講できないかと、研修担当に相談があったとする。

もし、研修担当が、「全社員が会場に出席すべき」「1日くらい我慢できないか」などと当事者に回答した場合、当事者からの相談を受け止めない姿勢や、当事者の研修参加機会を奪うことから、「差別」と批判される恐れがある。

 

事業者に望まれる対応は、当事者から申出があった場合、非当事者(健常者)との間にある格差を是正することにある。この例では、両者間で研修を受講する機会と便益に格差が生じる。是正するためには、「目的」を重視する姿勢が必要である。

例えば、上記の研修例の目的が「研修参加者の論理力向上」ならば、当事者への合理的配慮として、事業者側の過重な負担にならない限り、オンライン受講や、グループワークの課題は、後日、レポートを提出してもらう等の代替手段を採用する余地がある。

 

事業者は、この法改正を機会に、現状の業務やサービスが、多数派である非当事者(健常者)向けの設計に偏っていないかを洗い出してみてはどうだろうか。

合理的な配慮の提供は、当事者からの申出から始まるけれども、当事者のなかには、周囲から「甘えている」「あなただけズルい」などと言われた経験から、申出すること自体を諦めていたり、「問題社員」「クレーマー」などと言われたくないという思いから、事業者側へ自分から申出することに抵抗を感じたりしている方もいる。

いまの社会には、あらゆる面で多数派である者が、無意識のうちに作ってきたルールや慣習等がある。それらに合わせられない、最初から不利な状態にある少数派ともいえる当事者の視点を、先に先に業務やサービスに組み込んでいくことは、リスクマネジメントでもあり、かつ「誰一人取り残さない」というSDGsの観点からも重要になるだろう。

 

繰り返しになるが、合理的配慮とは、障害がある当事者と、健常な非当事者の間にある条件や能力等の違いを考慮し、同等になるように互いに取り組むものである。差別等の問題が発生する背景には、合理的配慮に関する理解不足が一因として挙げられる。事業者には、合理的配慮の意味や背景等の理解を促し、建設的な対話を重ねようとする姿勢がより一層求められる。

 


宮本 薫

医療・介護コンサルティング部 サービスグループ
兼 コーポレート・リスクコンサルティング部 人的資本グループ
上席コンサルタント 米国公認会計士

このコンテンツの著作権は、SOMPOリスクマネジメント株式会社に帰属します。
著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、SOMPOリスクマネジメントの許諾が必要です。
※コンサルタントの所属・役職は掲載当時の情報です。

人的資本に関するお問い合わせ