永遠の化学物質『PFAS』に関する訴訟動向(220330)
2020年12月に日本で公開された映画『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』(原題:Dark Waters)は、化学物質として非常に安定で、自然界中でなかなか壊れることがないことから、『永遠の化学物質』と呼ばれるPFAS(パーフルオロアルキル物質およびポリフルオロアルキル物質)による環境被害を訴え、大企業に挑んだ企業弁護士ロバート・ビロット氏(Robert A. Bilott)の、実話をもとにして作成された映画です。ロバート氏は、現在も法律事務所Taft※1に所属しており、PFASに関する訴訟に携わっております。ロバート氏の活躍は、この映画の題材になるほど世界的に大きな注目の的とされ、かつてPFASを扱っていた企業に対し、大きな影響を与えています。
その企業の1つである米国化学メーカーの1社は、2021年10月にベルギーのPFASを扱う工場の操業を一部停止させています※2。これは、ベルギーの環境省がPFASの排出を禁止した直後の決定であり、米国以外の国や地域で初のPFASに関する規制です。
米国においては、この化学メーカーは約20年前にPFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸)とPFOA(パーフルオロオクタン酸)の製造は停止していますが、数千ともいわれる多くの訴訟に直面しています。一方でPFASの毒性に関しては、妊娠時の母体への影響や、精巣ガン、腎臓ガン、甲状腺疾患、潰瘍生大腸炎、高コレステロール症を引き起こすとされていますが、いまだ科学的に明確な実証はされておらず、グレーゾーンにあります。したがって、PFASの製造に携わり、被告企業として訴えられた多くの企業は、その非を認めておらず、いたずらに訴訟期間が長くなることによる事業への影響を懸念し、和解措置を選択することが多くなっています。
永遠の化学物質PFASに分類される化学物質は、約5000種類あるとされており、機械の潤滑油や半導体等のエッチング剤、消火剤、また家庭用品である絨毯や、フライパン、撥水スプレー、食品ラッピング等と幅広く使用されています(フライパン等の製品に関しては、現在PFOSやPFOAの使用は中止されているものもあります)。現在米国で行われている訴訟の多くは、PFASを製造、または取り扱っていた工場が、これを環境に排出し環境を汚染したことによるものです。PFASを使用した製品によって、健康被害を訴える訴訟もまだ多くはありませんが、提起はされており、今後多くなることが予想されます。本稿では、現在行われている訴訟事例を含め、PFASに関する情報をまとめました。貴社のPL対策や、リスクマネジメントのご参考にして頂ければ幸いです。
※1 https://www.taftlaw.com/people/robert-a-bilott (2022年2月22日アクセス)
※2 https://pfasproject.com/2021/11/02/3m-pfas-production-shut-down-in-belgium-by-environmental-regulators/ (2022年2月22日アクセス)
* キーワード:化学物質、環境汚染、健康被害、PFAS、PFOS、PFOA、発ガン性物質
* 地域:米国