南海トラフ地震臨時情報の発表に際し企業の取るべき行動

事業継続(BCM)

2024年8月9日

BCMコンサルティング部長

石井 和尋

昨日(202488日)日向灘を震源として発生した地震に伴い、気象庁から「南海トラフ地震臨時情報」のうち「巨大地震注意」が、2019年の本制度の運用開始以降初めて発表された。昨日の地震をきっかけに南海トラフでの大規模地震の発生確率が相対的に高まった [1]とされるが、昨夜の発表を受けて「わが社は何をしたら良いのか」と戸惑っている企業等も多いかもしれない。

本コラムでは、南海トラフ地震臨時情報制度自体の解説は割愛するが、臨時情報(巨大地震注意)の発表を受けて企業が取るべき行動について解説する。

1.普段どおりの活動を

  • 鉄道会社など一部のライフライン関連企業では、減速運転や災害対策本部設置など平時と異なる警戒態勢を取り始めたが、一般の企業等は基本的に、普段どおりの企業活動の継続が期待される。南海トラフ地震発生時の危険度が高い地域(南海トラフ地震防災対策推進地域など)への出張も予定どおり実施してよいと考える。
  • 明日からのお盆休暇で南海トラフ地震発生時の危険度が高い地域に帰省・旅行する従業員に対しても、特に自粛を求める必要はない。行先・期間を社内で共有すること、災害情報を入手する手段を常に携行すること(スマートフォンで可)、会社と連絡が取れる状態にしておくこと(同)、津波の危険のあるところを訪問するのであれば念のためハザードマップを確認して避難場所や経路を把握すること、万一被災した場合は直ちに会社に報告すること程度をアドバイスするのが良いだろう。
  • 本社の危機管理・防災担当社員も、平時と同じ態勢(全国どこで災害が発生してもすぐに覚知できる、関係者間で連絡が取りあえる、相互の所在を把握している等)を維持すればよいと考える。
  • 太平洋沿岸部の拠点に勤務する従業員などで、勤務を継続することに強い不安を感じる者がいれば、1週間は無理に出勤を求めず休暇を取ってもらうような配慮も必要かもしれない。
  • 外国人旅行客等を相手にビジネスを行っている場合は、外国語での情報発信も期待される。

2.防災の再点検を

  • 一方で、自社の防災はしっかり再点検することをお勧めする。また、社内で災害への危機感が薄くなかなか取組みが進まなかったような場合は、これを好機と捉え、取組みを推進していただきたい。
  • 具体的な取組みは、立地、業種・業態などによって異なるが、「南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた防災対応検討ガイドライン【第1版】」(内閣府(防災担当)、令和35月 [2])(以下、ガイドライン)のチェックリストも参考になる(参照①)。このほか、従業員の家庭での防災についても啓発したい。
  • 安否確認システムを導入している企業は多いが、所属拠点や居住地での大地震を発報基準として設定しているケースが一般的である。この場合、元日の能登半島地震でも見られたように帰省先、旅行先で被災した場合には自動発報の対象外となってしまうため注意が必要である。少なくとも今後1週間に限っては、発生地域を限定せず全国どこでも一定震度以上の地震発生時に全社員に対して発報される設定に切り替える、あるいは揺れの大きかった地域に滞在していた従業員が能動的に安否を報告するよう求めるといったことも検討されたい。
  • また、臨時情報発表時の具体的な行動手順を取り決めていなかった企業等においては、今回の経験をふまえて今後の情報発表に備えて手順を整備しておきたい。ガイドライン第8章第5節でも、「巨大地震注意」発表時の企業等の防災対応について触れられているので参考にされたい。

 

3.いずれ来る大規模地震へも備えを

今後1週間に南海トラフで大規模地震が起きなかったとしても、近い将来に発生するのは確実といってよく、日に日に切迫性が高まりつつあると言える。1週間何事もなく終わっても手を緩めず、ガイドラインなどを参考に人命・資産を守るための防災とステークホルダーや自社経営を守るための事業継続の両面の備えを進めていただきたい。

参照①

ガイドラインより「地震への備えの再確認や取るべき行動のチェックリスト(企業編)」

※●:筆者付記(今回特に推奨する、短時間で取組み可能なもの)

 

身の安全確保と迅速な避難体制・準備

●地域のハザードマップを確認する

建物の耐震診断を行う

●従業員等に耐震性の低い建物には近寄らないよう周知する

耐震性が低い建物を利用している場合は、代替拠点に機能を移す

●安全な避難場所・避難経路等を確認するとともに従業員や顧客の避難誘導ルールを策定する

●従業員の安否確認手段を決める

●出入口に避難の支障となる物を置かない

防災訓練(避難訓練、火災消火等)を実施する

●土砂崩れや津波浸水のおそれがある場所での作業を控える

 

施設・設備などの安全対策

●重要設備の地震時作動装置の点検を実施する

機械・設備・PC等の転倒・すべり防止対策をする

机・椅子のすべり防止対策をする

●窓ガラスの飛散防止対策をする

●高い場所に危険な物を置かない

文書を含む重要な情報をバックアップし、発災時に同時に被災しない場所に保存しておく

 

発災後のための備え

●非常用発電設備の準備及び燃料貯蔵状況を確認する

早期復旧に必要な資機材の場所を確認する

事業継続に必要な調達品の確保を実施する(製品や原材料の在庫量見直し等)

●水や食料等の備蓄品の場所と在庫の有無を確認する

●企業・組織の中枢機能を維持するための、緊急参集や迅速な意思決定を行える体制や指揮命令系統を確保する

発災後の通信手段、電力等の必要な代替設備を確保する

取引先、顧客、従業員、株主、地域住民、政府・地方公共団体などへの情報発信や情報共有を行うための体制の整備、連絡先情報の保持、情報発信手段を確保する

●災害時の初動対応や二次災害の防止など、各担当業務、部署や班ごとの責任者、要員配置、役割分担・責任、体制などを確認する

津波浸水が予想される海沿いの道路利用を避け、輸送に必要な代替ルートを検討する

 

 


[1] 気象庁発表情報、https://www.data.jma.go.jp/eew/data/nteq/index.html

[2] 「南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた防災対応検討ガイドライン【第1版】」(内閣府(防災担当)、令和35月)https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/pdf/honbun_guideline2.pdf

石井 和尋

BCMコンサルティング部長

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