新型コロナウイルスにまつわるハラスメントとコンプライアンス体制

コンプライアンス

2020年5月22日

リスクマネジメント事業本部
コーポレート・リスクコンサルティング部

GRC推進グループ 上級コンサルタント

梶尾 詩織

前回のコラムでは職場におけるハラスメントについて述べたが、昨今、新型コロナウイルス感染症への対応からリモートワークが推進され、職場におけるハラスメントの一部は減少しているものと想定される。例えば、同じオフィスに出勤しなければ、殴る・蹴るをはじめとした「身体的な攻撃」は起こらない。また、対面での会議に代わりWEB会議が主流となれば、威圧的な態度をとり続ける、相手を怒鳴りつけるといった「精神的な攻撃」も減る可能性がある。

一方で、WEB会議中に「どんな部屋に住んでいるの?もっとよく見せて」などと要求したり、リモートワーク中の社員を必要以上に監視する等、私的なことに関わる不適切な発言や私的なことに立ち入るような管理など、「個の侵害」型のハラスメントが発生する懸念は高まっている。さらに、WEB会議に呼ばない、情報共有をしない、といった「人間関係からの切り離し」型のハラスメントも、オフィスワークに比べると発覚が遅れて長期化したり、エスカレートする可能性がある。リモートワークで想定されるハラスメントを、厚生労働省のパワーハラスメント6類型*1やセクシュアルハラスメントの類型にあてはめ、以下の表にまとめた(表1)。事業主は、通常勤務時のハラスメントに加え、リモートワーク時に特に起こりやすいハラスメントがないよう防止する必要がある。

 

1 リモートワーク時に起こりやすいハラスメント

(出典:当社作成)

 

そもそも職場においてハラスメントが起こる背景には、労働者への大きなプレッシャーやストレスがかかる職場環境があると言われている。*2

昨今の新型コロナウイルス感染症対応においても、外出の自粛や業務の遂行法の変更を強いられる等、国民にプレッシャーやストレスがかかっているのは実感されていることと思う。また、目に見えないウイルスへの恐怖や不安から他者へ嫌がらせを行う、「コロナハラスメント」なる言葉も生まれている。具体的には、感染者の個人情報を暴露する、医療関係者やその家族を病原菌のように扱う、宅配便の配達員に消毒スプレーを吹きかける等、報道された事例は枚挙にいとまがない。

しかし、これらはそもそも人権侵害であり、場合によっては暴行罪等刑事罰の対象にもなり得る。さらに、事業主には従業員が安全に働けるよう配慮する義務があり、自社の従業員が業務遂行においてこれらのハラスメントを受けないよう対応する必要がある。また、自社の従業員が他者に対してハラスメントを行っていた場合には、事実調査等に協力しなければならない。新型コロナウイルスを言い訳にしたハラスメントや人権侵害が横行しないよう、事業主は引き続き監督していくことが求められる。

 

感染症への恐怖や、ストレスなどが新たなハラスメントを生んでしまっている。今、企業としてできることの一つは、自社の従業員が業務遂行にあたって抱える不安を緩和させることだろう。例えば、在宅勤務や時差出社のルールは存在し、かつ従業員に周知されているだろうか。休業や休暇取得の要請は、明確な方針やルールに基づいて行われているだろうか。企業が明確な方針やルールを示さず、従業員個人の意思や努力に依拠しすぎるのは、従業員に混乱や不安を生じさせる。これらは平常時においても同様であり、そのためにコンプライアンス体制が必要である。

平常時にコンプライアンス体制が確立している組織であれば、感染症のまん延といった緊急時にも早期に組織的な対応をとることが期待できる。下記のチェックリストはその一例だが、今どのような対応をとっているか、平常時のコンプライアンスにおけるチェック項目と比較しながら確認してもらいたい(表2)。

 

表 2 感染症対応と平常時のコンプライアンス体制チェックリスト

(出典:当社作成)

 

今回、感染症防止のため外出の自粛や業務遂行体制の変更など、緊急対応を強いられた企業は多いが、平常時からコンプライアンス体制等が整っていた企業ほど緊急対応も容易であったと思われる。平常時からコンプライアンス体制が整備され、経営トップの方針が全従業員に浸透しており、従業員の不安を会社が受け止められる組織であれば、緊急時にも会社全体として力強い対応が可能となる。是非この機会に、感染症終息後を見据えた体制整備やルール設定を行っていただきたい。

また、コンプライアンス体制を構築・運用する目的の一つは、明確なルールの下、従業員が安心して働く環境を整えることにある。従業員が安心して働く環境を整えれば、情報共有が活発となり風通しの良い企業風土が生まれる。不安が多いこの時期だからこそ、企業には従業員が働きやすいと思えるような職場づくりが求められる。

 

感染症との闘いは、ウイルスに勝って終わりではなく、人々が安心できる生活を取り戻せるまで続く。ハラスメント対策のみならず、企業の生産性向上を見据え、明るい職場づくりを継続していただきたい。

 

 


*1 厚生労働省."ハラスメントの類型と種類".あかるい職場応援団

   https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/pawahara-six-types/

 

*2 厚生労働省.職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書(平成303月)

   https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11910000-Koyoukankyoukintoukyoku-Koyoukikaikintouka/0000201236.pdf

梶尾 詩織

リスクマネジメント事業本部
コーポレート・リスクコンサルティング部

GRC推進グループ 上級コンサルタント

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