米国における製造物責任(PL)とSDGs

製品・施設

2021年8月18日

リスクマネジメント事業本部
リスク調査部
賠償・労災グループ

上級コンサルタント

安藤 悟空

はじめに

製造物責任(PL)とは、製品に欠陥があり、使用者側に傷害などの問題が生じた場合にこの責任を企業がとるという賠償責任のことを言う。このPLは、世界各国で採用されている考え方ではあるが、米国が世界で群を抜いてリスクが高いとされている。

 

他方、SDGsは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称であり、貧困や健康や教育、エネルギー、働きがい、経済成長、気候変動など、17の世界的目標、169の達成基準、232の指標を示した国際社会共通の目標のことを示している。2015年に国連で採択されたもので、読者の皆さんも一度は耳にしているであろう。

 

この米国のPLとSDGs、一見して関連性は全くないように見える。しかし昨今、広義に見たこの2つが結びつくような賠償事例が米国で多数確認されている。

SDGsに関連するPL関連賠償事例

例えばわかりやすい事例として、強制労働問題に対するメーカーへの賠償請求事例がある。強制労働問題は昔から世界的にも問題視はされていたが、SDGsの中でも目標8「働きがいも経済成長も」にて「2025年までの強制労働・児童労働の撤廃」という基準が掲げられている。このような労働問題がメーカーの工場などで発覚した場合、企業は各国における法令による罰則や不買運動、最近ではSNSなどでの企業批判などの刑事罰や風評被害などという形で影響を受けるおそれがある。当然これらだけでも非常に甚大な問題となることもある。

 

しかし昨今米国では、これらとは別の形で、この企業の製品を購入した消費者から賠償責任を問われる訴訟が発生している。実際に某世界的大手食品メーカーでは、下記のような主張に基づくクラスアクション(集団訴訟)が起こっている。

強制労働を行っている業者から調達した魚であることを知りながら、これをキャットフードの原材料に使っていた。強制労働と関連していることを知っていれば購入しなかった。

いわゆる不正な環境で作られた製品を買わされて経済的な損失を負った(こんな製品に〇〇ドルも払わされた)ため、この製品の購入額を賠償額として主張されている。

 

このような事例はその他にも下記のようなものがある。

1 最近の主な米国賠償訴訟事例

観点 賠償訴訟概要 SDGs
男女差別 女性向けと男性向けの制汗剤が販売されているが、同一成分にもかかわらず女性用の方が高額である。性的差別的な価格設定『ピンク・タックス』がある。

目標5

「ジェンダー平等を実現しよう」

健康 対象食品には過剰な砂糖が含有されているが『ヘルシー』や『甘さ控えめ』などと記載されている。

目標3

「すべての人に健康と福祉を」

海洋環境 『イルカ保護』と記載されているキャットフードのために行われているマグロ漁では、毎年大量のイルカが殺されている。

目標14

「海の豊かさを守ろう」

節電

洗濯機に、節電効果を示すラベルが貼られていたが、これが事実と異なっており、不当に高額で製品を購入させられ、余計な電気代を支払わされた。

目標7

「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」

児童労働

チョコレートの原料が、児童労働によって得られたものであった。

目標8

「働きがいも経済成長も」

(出典:PL・リコールクラブ「米国PL訴訟ウィークリーニュース」の各訴訟事例より抜粋)

いずれも上記同様、企業が提示、表示した内容に騙されたなどと主張し、経済的損失を求めるクラスアクション事例となっている。

クラスアクションによる賠償額の高額化

現在米国では上記で示したようなSDGsに関連するような訴訟や、それ以外にも数々の表示の虚偽に対して経済的損失を求める訴訟が頻発している。

 

この訴訟の最も気を付けるべきポイントは、賠償額が非常に高額になるということである。上記のような訴訟はすべてクラスアクションという形で展開されるが、米国の特徴は集団の対象者が、その製品を購入したすべての人となる可能性があることである。このため、原告が数百万人にもなる事例も存在する。製品の購入額が被害額となるため、ひとりあたりの金額は数百円や数千円程度となることが多いが、この対象数が甚大となるため、賠償額もトータルでは数億円や数十億円となるケースが頻発している。

企業としての対策

このような事案の発生を予防するための対策としては、消費者や社会が求めている認識と、企業側が提示する表示情報との間に齟齬がないかを、常に確認、検討していく必要がある。例えば上記例に砂糖の過剰使用の事例があるが、昨今の健康志向の高まりに対して、これまで問題として提起されていなかった『砂糖』という成分が、『多く使用されることによって健康に影響が出る』というのが認識として強まってきている。これに対して、企業は『ヘルシー』という言葉を使ったことで、虚偽であると主張されてきている。このような認識の齟齬が出ない表示や企業行動の考え方にシフトしていかなければならない。「これまでは問題なかった」は通用しない。

 

ではこの認識を高めるためにはどうすればよいかというと、1番は事例を知ることである。様々な事例を知っていれば、このような認識の微妙な変化にも敏感になり、消費者の認識とのズレも低減、少なくともそれに該当するような行動や表示を控えることができる。当グループでは、このようなPL関連事例を取り扱う「PL・リコールクラブ」という情報配信サービスを提供している。このような情報ツールを参考とし、リスクマネジメントの一助とするとより効果的である。

安藤 悟空

リスクマネジメント事業本部
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