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オンライン型対策本部訓練の落とし穴と対策
2021年9月7日
リスクマネジメント事業本部
BCMコンサルティング部長
石井 和尋
新型コロナウイルス感染症の流行を機に、多くの企業でテレワークの導入が一気に進んだ。それに伴い、Teams、Zoom、Webex*1等のオンライン会議ツールが、現在多くの組織にとって業務運営上、必要不可欠なビジネスツールとなっている。
これらは、平時のツールとしてだけでなく、緊急時の社内コミュニケーション手段としても注目されている。
コロナ前は、災害を想定した対策本部訓練は、一室に対策本部要員が全員集合して行われる型(以下「集合型」)が多かったが、コロナ後は、オンライン会議ツールを通じて会社もしくはそれぞれの自宅から参加する訓練(以下「オンライン型」)の割合が増えている。感染力の強い変異株の蔓延により、当面は多くの社員が一室に集合することは難しいこと、またテレワークが社会に実装されつつある現状も踏まえると、今後は、オンライン型の対策本部訓練が盛んになるだろう。しかし、訓練を企画するに際しては、大きな落とし穴があるので注意したい。
オンライン型対策本部訓練は、次のような設定・流れで企画されることが多い。
<設定>
1.就業時間内に、本社所在地で大きな地震が発生。
2.地域のライフライン被害はあるものの、ネットワークは使える。
3.対策本部要員の全員が参加する。
<流れ>
1.対策本部事務局が、対策本部用の会議の場を設定し、対策本部要員を招集する。
2.各部が、オンライン会議ツール内に設置された小部屋*2に入る。
3.各部が、小部屋内で会議を行い情報共有し、各部としての当面の実施事項を方針決定する。
4.対策本部全員が同じ場に入り、対策本部全体で情報共有する。
5.局面を変えて3,4,5を繰り返す。
広域災害時に起きる可能性の高いことを想像してみれば、「災害直後から、全員がオンライン型対策本部活動に加わる」という設定に大きな落とし穴が潜んでいることに気付くだろう。
災害時には、次のような事態が想定される。
●停電により自宅のWi-Fiが使えなくなり、自宅からPCでオンライン型対策本部に入れない。
●通信回線の損傷により、通信ができない。
●データ送受信の遅延・障害により、スムーズなオンライン上でのやり取りができない。
●在宅要員本人や同居家族が負傷したり、自宅が損壊したりする。
仮に本社側はライフラインへの対策が講じられていたとしても、災害発生時に在宅だった者の多くが、オンライン型対策本部に参加できないのが現実だろう。それを踏まえて、初回の訓練は前述の(甘い)設定でやるにしても、2回目以降は現実的な被害を織り込み、より実戦的な訓練内容とする必要がある。織り込む例を記すので参考にしていただきたい。
●一部の在宅要員を欠員とする(訓練に全く参加しないということでなく、音声・動画オフのオブザーブが望ましい)。
●自宅PCが停電により使えなくなったことを想定し、一部の在宅要員はスマートフォンにインストールした
オンライン会議ツールアプリから参加してもらう(自宅が停電しても、携帯電話網経由のデータ通信ができる可能性はある)。
●通信障害を想定し、データ容量を抑えるため、全員が動画・音声機能を使わない。
臨場感を高めるさらなる工夫として、誰が欠員となるか、スマートフォンからの参加となるかは、あらかじめ知らせるのではなく、開始時に知らせるとよい。なお、欠員の割合は、地域の被害想定や自社の在宅率を考慮したい。首都圏であれば、例えば最初の局面では5割として、局面が進むにつれて下がっていくような設定も考えられる(スマートフォンのバッテリーが切れ、欠員が増える事態もあり得る)。
また、オンライン型対策本部が機能しない場合のプランBについては、オンライン型対策本部を断念する条件とともに、しっかり準備しておきたい(対策本部が集合型であっても、同様に必要である)。具体的には、「災害発生時に本社に出社していた社員だけで集合型の対策本部を運営する」、「非被災地の社員が本社対策本部機能を代行する」などのプランである。
現実的な被害想定に基づくオンライン型対策本部訓練の工夫とともに、プランBへの移行を想定した規程の整備や訓練の実施などの実戦的な取り組みが望まれる。
*1 それぞれ、Microsoft社、Zoomビデオコミュニケーションズ社、Cisco Webex社の製品。
*2 Teamsであればチャネル、Zoomであればブレイクアウトルームと呼ばれる機能。
石井 和尋
リスクマネジメント事業本部
BCMコンサルティング部長
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