サプライチェーンと事業継続マネジメント(BCM)

事業継続(BCM)

2022年1月31日

リスクマネジメント事業本部
BCMコンサルティング部

上席コンサルタント 井上 修一
主任コンサルタント 北郷 陽子

事業中断リスクとサプライチェーンBCM

新型コロナウイルス感染症の変異株「オミクロン株」の感染が拡大する中で、従業員自身が感染したり濃厚接触者となったりして欠勤率が上昇し、事業継続に支障をきたす事態が懸念されている。こうした事態は自社だけでなく、自社のサプライチェーンを構成する企業にも当てはまる。そして、サプライヤの操業度が下がれば、自社の操業にも影響が生じうる。このように、危機が生じるとサプライチェーンが途絶し、仮に自社に被害がなくても事業継続に支障をきたすケースが後を絶たない。自社の事業継続力を高めるためには、サプライチェーン全体で事業継続マネジメント(BCM)の取り組みの底上げが必要である。

 

サプライチェーンのBCMに取り組む際に押さえるべきものとして、下記5点が挙げられる(表1)。一方で、企業としてかけられる工数(担当者数や時間)にも限界があったり、独自の技術を持つ替えの効かないサプライヤが存在し続けたりするなど、サプライチェーン途絶リスクをゼロにすることは困難である。一度に完璧を求めるのではなく、取り組み範囲の優先順位付けをしながら進めることが望まれる。最近は、サプライヤのリスク情報の収集に役立つシステムツールも複数登場している。こうしたツールも用いながら、調達部門の負荷を軽減することも、継続的な取り組みにおいては重要である。

表1 サプライチェーンBCMでの主な実施事項

No. 実施事項 概要・ポイント
調達品の情報整理 自社の重要製品・サービスに紐づく調達品の特定と、当該調達品の情報(一社購買か複社購買か、代替サプライヤがいるか等)を整理する。
サプライチェーン構成企業の把握

先進的な事例では、直接取引のあるサプライヤだけでなく、2次・3次以降のサプライヤについても把握している企業もある。一方で、サプライチェーン全体を把握し、かつ定期的な更新を継続することは極めて困難で、対応に苦慮している企業も少なくない。自社の重要製品・サービスと紐づけて主要なサプライヤに限定する等、対象範囲を絞って進めることも必要である。

リスク評価 サプライヤの立地環境やBCM取り組み状況から、リスクの度合いを評価する。立地環境については、ハザードマップ等をもとに想定される被害を把握する。BCM取り組み状況については、アンケートやサプライヤ監査等を通じてサプライヤのリスクに対する脆弱性を把握する。サプライヤを取り巻く事業中断リスクは、自然災害、感染症、サイバー攻撃等、多様化していることにも留意する必要がある。
リスク評価結果に応じた対策の実行 リスクの高い、あるいは自社にとって主要なサプライヤを優先し、リスク評価結果に応じた対策を打つ。リスクの高い調達品については、代替サプライヤの確保、在庫積み増し、部品の共通化等、リスクを軽減するための策を検討する。3. でアンケートや監査を実施した場合は、その結果をフィードバックし、改善に向けた情報提供を行うことが望ましい。

リスク発生時や、予兆察知時の

早期状況把握

報道情報やサプライヤからの報告をもとに、有事の際のサプライヤの被災状況を早期に把握する体制を整える。アンケートシステムや、情報収集システム等、システムツールを利用することも有効である。

 

気候変動とサプライチェーンBCM

最近注目を集めているサステナビリティ・ESG経営の観点からもサプライチェーンは重要なテーマである。とりわけ、気候変動は従来の自然災害等を対象としたサプライチェーンBCMと親和性が高い。

例えば、気候変動がもたらす自社の財務への影響については、2022年4月にプライム市場上場を予定している企業を中心に、TCFDの枠組みを活用した分析と開示の準備が進められているが、この中でも物理リスクとして自然災害によるサプライチェーンの混乱が増加するといった議論がなされている

表2 TCFDで議論されている物理リスクとサプライチェーンBCMに関連する影響例

物理リスクの種類 現象例 自社やサプライヤへの影響例
急性 異常気象による気象災害等 台風、豪雨(洪水)、土砂、高潮等 被災による操業停止
慢性

降雨や気象のパターン変化、

平均気温の上昇、海面上昇等

干ばつ・水不足 水利用制限による操業度低下
高温・熱波 熱中症等労働時間の損失による操業度低下
土地の浸水 生産拠点等の滅失

一方、現在のBCM活動では、自社拠点やサプライヤのリスク評価として自然災害ハザード調査や発生頻度に応じたレーティング等が行われていても長期的な環境変化までは考慮できておらず、上記の潮流と同期した動きになっていないことが多い。

物理リスクがもたらす自社を取り巻くサプライチェーンへの具体的な影響評価に有用なハザードマップのようなものはまだ多くはないが、国内の河川洪水について、国土交通省が一級河川で浸水想定区域図(計画規模)を作成する際に用いられる洪水の発生頻度として、産業革命前に比べて平均気温が2℃上昇した場合は全国平均で約2倍に、4℃上昇した場合は約4倍になるとの試算(表3)を示し、徐々に分析環境も整っていくと思われる。

 

表3 降雨変化倍率を基に算出した、流量変化倍率と洪水発生頻度の変化の一級水系における全国平均値

(出典)気候変動を踏まえた治水計画のあり方 提言 改訂版【概要】, 国土交通省, https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/chisui_kentoukai/pdf/r0304/00_gaiyou.pdf

 

BCMが企業の短期的なレジリエンスのみならず、長期的なサステナビリティにも寄与できるように、上記のような情報動向も注視し、将来の気候変動シナリオを織り込んだリスク評価、対応を行っていくことが求められる。

 

まずは、表1に掲げるような主な実施事項を実行する仕組み・サイクルを構築し(対象を絞ったスタートでも構わない)、仕組みが定着してきたら、気候変動を加味したリスク評価のように取り組み内容を進化させていくのが良いと考えられる。なお、サプライチェーンのBCMの強化は、サプライヤの協力なしには達成できない。サプライヤに一方的に協力を求めるのではなく、ノウハウの提供や、取り組みに熱心なサプライヤ向けの取引条件の改善等、サプライヤ側にもメリットが感じられるような進め方も重要である。

 


* TCFDを活用した経営戦略立案のススメ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイド ver3.0~, 環境省, http://www.env.go.jp/policy/policy/tcfd/TCFDguide_ver3_0_J_2.pdf

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上席コンサルタント 井上 修一
主任コンサルタント 北郷 陽子

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