メーカーにおける品質不正問題を未然に防ぐ――従業員の意識向上のために

製品・施設

2024年6月21日

リスクエンジニアリング部 賠償・労災グループ

主任コンサルタント

松本 英里子

2000年以降、データの改ざんや隠ぺいなどの品質不正問題(以下、不正問題)が相次いで発生しており、依然として収束する気配がない。毎年、複数の名だたる企業がこれらの問題でメディアに取り上げられ、場合によっては社会問題にまで発展するケースも見られる。そのため、不正問題は、企業リスクの1つとして捉えるべき重要な課題であると言える。

1 2000年以降に発生した主な不正問題

 

表1に示すように、これまで数々の不正問題が発覚し、全国に大きく報道されてきているなか、なぜこれらの問題はなくならないのだろうか。組織体制や風土、労働環境など様々な要因が挙げられるが、今回注目したいポイントは、「従業員1人1人の不正に対する意識」である。例えば、どんなに素晴らしい検査システムを導入しても、それを扱う従業員の意識が低ければ、データの改ざんは発生するだろう。つまり、従業員が企業の理念や規範を理解し、それに従う意識を持っていなければ、いくら体制やシステムを構築しても不正をなくすことは難しいと考える。

 

では、どのようにすれば従業員の意識を高め、企業として不正問題を未然に防ぐことができるのだろうか。意識向上のための対策は様々あるが、今回は、コンプライアンス教育にスポットを当てる。

 

当然のことながら、コンプライアンス教育の実施を徹底することは、従業員の意識を向上させるために重要なポイントである。ただ、教育に関しては、既に多くの企業で実施しているだろう。ここで着目したいのは、従業員1人1人に、その教育の目的や内容が伝わっているか、という点である。当社で過去実施した調査(不正発生予防のための意識調査サービス)のなかでは、管理職と現場担当者間で、教育の認識にギャップがあることが確認されている。管理職としては、「適切に教育を実施している」という認識を持っていても、現場担当者に話を聞くと、「コンプラ教育はやっていない」「たまに教育に関する資料が回ってくるから、ハンコは押している」といった声も多く寄せられた。

 

1 管理職と現場担当者間のギャップのイメージ

 

このようなギャップが生じると、従業員のコンプライアンス意識を醸成することは難しくなる。そこで重要となるのが、教育の『内容』や『伝え方』である。

よく見かける教育資料として、他社の品質不正事例の概要をまとめ、「みなさんも気を付けましょう」と呼びかける形式のものがある。しかし、この形式では、「自分に関係のないものはスルーしてしまう」「自分の業務に当てはまらない部分もあり、理解するのが難しい」といった声もあり、従業員が教育内容を「自分ごと」として捉えにくい可能性がある。そこで、おすすめしたいのは、「不正問題が発生したとき、会社や自分自身がどんなことに巻き込まれ、自分にとってどんな不利益が生じるのか」を教育で伝えることである。

例えば、過去のヒヤリハットやケーススタディを用いて、自分の業務に置き換えて考えることができる内容が効果的である。不正問題が発生した場合の具体的な流れや影響、対応方法などを実際の業務内容に即した形で提示するとともに、不正問題の「要因」に着目することで、これらの問題を「自分ごと」として捉えやすくなる。また、教育の効果を高めるために、ディスカッションやグループワークを取り入れることも有効である。他の従業員と意見交換することで、教育内容をより理解し、記憶への定着を促すことができる。

 

さらに、「従業員の不正問題に対する意識調査」を定期的に実施することもおすすめしたい。アンケートやヒアリングなどの結果から、現場の実状や従業員の意識レベルを把握することで、教育内容や実施方法の改善につなげることができる。

 

繰り返しになるが、不正問題を未然に防ぎ、社会から信頼される企業であり続けるためには、従業員1人1人の意識向上が不可欠である。今回は、コンプライアンス教育に着目したが、組織体制や風土、労働環境の整備など、様々な角度から従業員の意識向上を図ることが重要と考える。

 

 

 

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松本 英里子

リスクエンジニアリング部 賠償・労災グループ

主任コンサルタント

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