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女性限定サービスは男性差別か? ~倫理を議論する機会の重要性~
2024年9月27日
医療・介護コンサルティング部 サービスグループ
兼 コーポレート・リスクコンサルティング部 人的資本グループ
上席コンサルタント
宮本 薫
ある外食チェーンが実施した女性限定サービスが、男性差別ではないかと物議を醸している。本サービスは、あるイベントとのコラボレーションかつ期間限定のものだったが、女性客の注文数が少ないこと等もふまえた料金割引キャンペーンだった。マーケティングの観点からは、顧客接点をより拡大し、収益の最大化を図ろうとしたものと見受けられる。本サービスの発表後、ネット上では、「男性差別だ」「(差別と批判するのは)男としての器が小さい」「女性へのやっかみ」など多様な意見が見られた。
この事案は、今の企業が、収益の最大化とともに、倫理の観点からもサービスの妥当性等を議論することが、ますます必要になっていることを示唆している。具体的には、個人の良心に従ってサービスが倫理的かを直観的に捉えるだけではなく、倫理的かどうかの根拠を社内で議論し、評価する機会が重要になっているということである。
倫理を議論するということは、自社のサービスを、例えば倫理学の代表的な考え方であるベンサムの功利主義や、カントの義務論などをふまえて、倫理的とする根拠を問い、筋を通して考えることである。前者ならば「このサービスはより多くの人々に幸福を与えるのか(最大多数の最大幸福)」を具体的に議論する。後者ならば「人を単に手段として扱っていないか(汝の人格のうちにある人間性を常に同時に目的として扱い、単に手段としてのみ扱わないように行為せよ)」を問う。
功利主義からすると、「女性限定サービス」は、たとえ男性の家族とともに入店しても、「幸福」を享受できるのは女性のみである。義務論から問うと、例えば女性の福利厚生の向上を目的に事業を展開している企業が、手段として「女性限定サービス」を行うならば、義務に反していないが、そうでないならば、自社の利益の最大化を目的に、女性を手段としているように見える。
また、「平等の原則(利益に対する平等な配慮)」からも問うと、女性の利益は“女性だから”という理由で優先され、男性は“男性だから”という理由で利益を享受できない。仮に、「高齢者限定サービス」だとすると、性別は関係ない。今は高齢者ではなくとも、人は必ず高齢者となる。誰しもが「高齢者限定サービス」による利益を享受できる機会がある。
しかし、性別は、生物学的にも、性的アイデンティティーからも、乗り越えることができない。乗り越えられない「属性」をもとにした料金設定は、倫理的には、男性差別と言われても仕方がない。
倫理の議論のなか、疑義が生じるならば、他のサービスを考える。例えば、どうしても性別に焦点を当てたいならば、「女性限定サービス」と合わせて、「男性限定サービス」も提供する。性別によるサービスから、特定のメニューや特定の時間帯などを組み合わせたサービスへの変更を検討してみる。
これまで「女性限定サービス」は、例えば男女間の賃金格差などの社会的な背景もふまえて、いわば「事情によっては許される差別」として人々の間に受け入れられてきたとも考えられるが、ジェンダー平等への理解が進んでいるなか、これからは「差別ではないか」と指摘を受ける可能性が大きい。
企業は、これからも収益最大化を目指し、市場分析やリスク評価を行って、多種多様なサービスを企画し、実施するだろう。その過程のなかに、自社の理念やこれまでの取組みをふまえて、新しいサービスがどのような位置づけにあり、かつ倫理的かどうかを社内で議論する機会をもつことが望ましい。そうした議論の積み重ねがあれば、ステークホルダーともより充実した対話ができるだろう。
参考文献
●小寺聡(編)「もういちど読む山川倫理」(山川出版社、2011年4月)
●ピーター・シンガー「実践の倫理[新版]」(山内友三郎・塚崎智監訳、昭和堂、1999年)
●三谷竜彦「いわゆる男性差別の問題について(1)-女性専用車両の是非を考える-」(https://nagoya.repo.nii.ac.jp/records/28714 アクセス日:2024-9-19)
●三谷竜彦「いわゆる男性差別の問題について(2)-女性限定サービスの是非を考える-」(https://nagoya.repo.nii.ac.jp/records/28676 アクセス日:2024-9-19)
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